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2011.05.11 *Wed*

王子様のご帰還です 2

あれから、何が何だか分からないまま着替えさせられ、
とりあえず朝食になり、俺は至れり尽くせりな状況となっていた。
着替えさせられた洋服だって見た事もない形だし
それにしては俺にだってわかるぐらい上等な生地だし
触るのも怖いぐらいキラキラな宝石がついたアクセを付けられるし
俺が歩くと執事やらメイドやら騎士やらがぞろぞろと付いてくるし
朝食だって出されたものもこんなに食べられるかってぐらいの量だし
ありえないぐらい美味しすぎるし、いや美味しすぎるのは嬉しいけど
でも一般庶民の僕にとったらこんな事、罰があたるんじゃないかとか
実はドッキリなんじゃないかとかもう常にビクビクしてる状態で
何ていうか心が常に休まらないというか、緊張しっぱなしですってば!

なのに、なのに
「王子、朝食が済みましたらご帰還の旨を王様に報告に行きましょう」
って執事さんは言うんだよ!!
王様って、王様って、この国で1番偉い国王様だよね!?
僕なんかがとても会えるような身分じゃないって話なんですけど!?
王子王子って、僕はそんなものになった記憶なんて微塵もないのに
何でみんなしてそうやって僕を苛めるんだよ!
僕は、日本で生活してたときだって大人しい反抗なんて知らないような
人一倍気の小さいやつだったっていうのに・・・!

誰か、助けて・・・!

そう思うのに非情にも執事さんは僕を逃がすことなく
引きずるように王様がいるという部屋まで連れて行かれてしまった。

部屋の前で、ビクビクしながら扉を開けずにいると
執事さんはゆっくりと僕と目を合わせて言った。

「王子、今は記憶を無くしていらっしゃるようですが、
 王様は王子にとってはお父様です。怖い事は何もありません。
 それどころか、王様は王子を目に入れても痛くないほど
 可愛がっておいででしたからこの度のご帰還をとても喜んでらっしゃいますよ」

優しくそう言ってくれた執事さんを恐る恐る見て
「本当・・・?」
と言うと、執事さんは目をとても嬉しそうに細めた。

「えぇ、勿論ですとも。王子のご帰還を皆心待ちにしていたのですよ」

そうして優しく背中を押してくれた。
王子なんかじゃないから、王子になりすましたって怒られるかもしれないけど
とりあえず今のところ怒られる事はないのかな・・・
そう思って僕は少しだけ勇気を出してその扉を開くことにした。

まずは執事さんがノックをして王様に声をかけた。
「王様よろしいですか?」

「あぁ、入れ」

そう少し渋みのある声で部屋の中から告げられ扉を開くと
そこにはいかにも王様という人が立っていた。

ひげを上品に口元に生やし、少し白髪交じりの整えられた髪。
気品があって怒ると怖そうな顔。
なのに今は優しそうに微笑まれていて、どうしてだろう。
僕は初めて会うはずのこの王様の事を、懐かしいと思ってしまった。

懐かしいなんて、感じるはずないのに。

部屋に入ったもののそれ以上は近寄る事が出来ずぼうっと立っていると
王様は僕の方へと一歩一歩歩み寄って来ていた。

「あ、あの・・・」

何も言う事ができず王様を見つめていると
隣にいた執事さんが王様に向かって状況を説明するように口を開いた。

「王様、王子は・・・」

すると王様はそれを片手で制し、
「よい、報告は受けておる」

そう言って僕の目の前まできた。
緊張して、何を言われるのだろうとドキドキしている僕に
それはいきなり襲ってきた。

「ナタリオ!!この時をどんなに待ったか!!父は寂しかったぞ!!」

そう叫ばれて目の前の王様がいきなり僕に抱きつき
ぎゅうぎゅうと僕を締め付けてきたのだ。

「!?・・・!!??」

そればかりかひげが生えている頬をぐりぐりと顔に擦りつけられ
締め付ける腕は抱きしめていたと思ったら次第に
僕の背中や尻を這いまわり始める。

「ん・・・ぁ!」

こ、これってセクハラ!?
あまりの事態に吃驚して抜けだそうと身を捩るのだけれど
どうしても王様の力が強くて抜け出せない。

「ちょ・・・!」

「あぁナタリオ、記憶を無くしたと聞いたが父の事も忘れてしまったのか?
 ならば思い出せるようにもう1度父の愛を注ぎ続けると誓おう!」

やめ!なんなの!?
必死でもがき続けるのに全然気付いてくれないし
隣の執事さんは執事さんで「あぁ、なんて素敵な親子愛でしょう!」
なんて呟きながら目元をハンカチで拭っているし

誰か!助けて!!

そう思った瞬間、部屋の扉が開いた。

「お父様!何をしているのですか!?」

そう叫びながら入ってきたのは僕よりも少し年上の青年2人と
やっぱり僕より少し上そうな綺麗な女性2人だった。

誰だかはよく分からないけれど、これで放してもらえる・・・!
そう思った矢先

「ずるいですわ!お父様ばかり!!」
「そうです!私たちだってこの時をどんなに待ったか!!」

そう言いながら抱きついている王様をそのままに
その人たちがさらに僕に抱きついてきたのだった。

ぎゃ―――!!

「あぁ、ナタリオ愛しているよ」
「ナタリオ記憶がないとは本当ですか?」
「ナタリオ、お姉さまが分からないのですか?あんなに愛を囁いたのに」
「大丈夫だ、怖い事なんてないよナタリオ」

口々にそう言い、4人とも僕を囲んでぎゅうぎゅう抱きついてくる。

う・・・つぶさ・・・れる・・・

息も絶え絶えに「助けて・・・」と執事さんを見ても
「感動の再会ですなぁ・・・」とハンカチに向かって号泣していて
もう僕は窒息して死ぬんだな・・・

そう思いながら誰だかもわからないこの人たちを恨みながら意識を手放していた。



それから。
どのくらいの時間僕は意識がなかったのかは分からないけれど
意識を取り戻した瞬間から、目の前の王様と4人の男女は
ごめんなさい、ごめんなさいと僕に平謝りだった。

「ごめんなさいナタリオ。あなたが可愛くていつも同じ事を・・・」

要するに、この人たちにとってあれは日常茶飯事だと。
そして僕が苦しくなって意識をなくすのも日常茶飯事だと。

思わず気が遠くなる出来事だった。

落ち着きを取り戻し、ようやく状況を説明してもらえる段階になった。
よくよく話を聞いてみると、この4人の男女は僕の兄と姉らしく
上から兄、兄、姉、姉、僕の5人兄弟なのだそうだ。
お后様である僕の母は僕が小さい時に亡くなってしまったそうで
母の代わりと、僕の事を愛し育ててくれた王様と兄姉は
いき過ぎた愛情を持ちすぎ末っ子である僕が可愛くてしょうがないらしい。

それ故、頻繁にあんな事が起るんだとか。

・・・大変だったんだね王子って・・・

げっそりと、その末っ子の王子に僕は同情した。

そして話を聞いていくうちに僕が記憶を無くした理由を教えられた。





・・・BACKTOPNEXT・・・
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